Aizu-Progressive xr Lab blog

会津大学のVR部であるA-PxLの部員が持ち回りで投稿していくブログです。部員がそれぞれVRに関する出来事やVRにちなんだことについて学んだことを書いていきます。

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仮想空間を自由に歩き回りたい~リダイレクテッド・ウォーキング~

皆さんこんにちは学部4年の森口です。
私ももう卒業でA-PxLのブログで記事を書くのもこれが最後になるのかなと思います。
学部1年の頃から活動してきて色々思い出のできた部だったと思いますし私のキャリア形成のきっかけを作ってくれた部でもあります。A-PxLのメンバーで良かったとほんとに思います。 さて、今日の本題ですがこれまで私が担当した記事を確認したところVR関連のものが殆どなかったのでVR関連の技術である「リダイレクテッド・ウォーキング」というものについて話していきたいと思います。

リダイレクテッド・ウォーキングとは

リダイレクテッド・ウォーキングとは被験者に対し現実と少し異なる映像を見せることで仮想的に物理空間を拡張する技術のことです。
ここで言う「現実と少し異なる映像」は被験者の移動量や回転量に対して操作を加えた映像のことで、例えば実空間での1メートルの移動に合わせて2メートル移動しているような映像を見せるといった感じです。
この映像は極端に現実と違うものではそのことを被験者が知覚できてしまいVR酔いなどに繋がります。知覚不可能なほどの変化を与えることで現実では限られたガーディアン内をウロウロしているだけなのにそれよりも遥かに広大なVR空間を移動可能にする技術です。

リダイレクテッド・ウォーキングにおける操作

リダイレクテッド・ウォーキングには3つの基本的な操作があります。並進移動量操作回転量操作 曲率操作です。
物体の動きというのは並進移動と回転の2つに分けられるため、これらの拡張や縮小を行う操作に加え曲率操作というカーブした動きを直線的な動きに変換する操作も含んでいます。それぞれについて説明していきたいと思います。

並進移動量操作

並進移動量操作は実空間の並進移動量をもとに仮想空間内の並進移動量を拡張・縮小を行うことです。
一応操作なので縮小することも含まれると思いますがリダイレクテッド・ウォーキングの目的の一つにVRの体験空間の拡張があるのでこの操作では主に並進移動量を増幅することが多いと思います。
一番簡単に思いつく実装方法はHMDの位置を毎フレーム取得して移動方向のベクトルを何倍かした結果得られるポイントにHMDを無理やり移動させることでしょうか。
この際に使われる係数のようなものは並進ゲインと呼ばれます。

回転量操作

回転量操作は並進移動量操作同様に実空間の回転量をもとに仮想空間内の回転量を拡張・縮小します。
これも毎フレームHMDの向いてる向きを取得して実空間で回転した量を用いて操作を加えた分仮想空間のHMDを回転してあげるのが一番簡単ですかね。回転量操作では回転ゲインという数値を使います。

曲率操作

曲率操作は実空間における曲がった動きを直線的な動きへと変換する操作です。極端な話、適切な曲率操作を用いたコンテンツでは同じ空間を円形にぐるぐる回っているだけで仮想空間では永遠に直進することができます。
このときに用いられる曲率ゲインは歩いている経路の半径の逆数(半径をr とすると曲率ゲインは1/r)で表現されます。
この半径については約11.6mの半径では被験者が曲がっていることに気が付かなかったという研究結果もあるようです。

言葉だけでは伝わりづらいと思いますのでかんたんな図を載せておきます。(曲線が不格好なのはご容赦ください) f:id:aizu-vr:20210202012332p:plain

このような操作を駆使することでガーディアンの拡張を行うことができます。

リダイレクテッド・ウォーキングの例

リダイレクテッド・ウォーキングを用いたコンテンツはいくつか公開されているので紹介していきたいと思います。

Unlimited Corridor

こちらは東京大学の廣瀬・谷川・鳴海研究室とユニティ・テクノロジーズ・ジャパンが共同で研究・出展を行ったコンテンツでDCEXPO2016で展示されました。
このコンテンツのユーザーは湾曲した壁を触りながらVR空間を移動します。このとき曲率操作によりVR内の視点では直線状の壁伝いに歩行している映像が映されています。
このコンテンツでは曲率操作に加えて壁を触るというアクションから触覚を用いたアプローチでリダイレクテッド・ウォーキングを実現しています。

www.dcexpo.jp


Unlimited Corridor

Change Blindness Redirection in Virtual Reality

こちらは南カルフォルニア大学のMxR Labが研究開発を行ったものでユーザーの位置に対してVR空間のオブジェクト配置を変更することでガーディアン内でおなじを動きをし続けることができます。


Change Blindness Redirection in Virtual Reality

やってみた

実はこのリダイレクテッド・ウォーキングは私の卒業論文のテーマなのです。
なので私もこの技術を使って一つコンテンツを作っています。


リダイレクテッド・ウォーキングDEMO

コンテンツは溶岩を海を移動するというコンテンツになっています。動画内のガーディアンの大きさは5m四方ですがVR空間内はおおよそ10m四方になっているので単純計算で4倍の大きさのスペースを移動できるようになています(道を用意しているのでその部分しか移動できませんが...)原理としては実空間の移動に合わせて地面を移動・回転させることで見かけ上の移動量(相対的な移動量)を変化させています。
この手法の問題点は現状事前に移動ルートを決めガーディアンから出ないようにさせる必要があります。そのため山道を探検したりだとか迷路のような一定のルートを進むようなコンテンツでは効力を発揮しますが昨今のRPGゲームみたいな自由に歩き回るようなコンテンツには向かないと思います。しかし映像からわかるようにUnlimitedCorriderのような機材を使わずOculusQuest一つでできるようにして、なるべく一般の人たちの自宅でのVR体験にスポットを当てて研究開発を行いました。
どこまで公開していい情報なのかわからないのでこのあたりで私の話は終わりますが個人的にVR空間の無限歩行には昔から興味があったので非常に研究していて面白いテーマでした。

まとめ

それでは今回の記事のまとめに入りたいと思います。

  • リダイレクテッド・ウォーキングは人が認識できないほどの違いを含んだ映像をVR空間で見せることで仮想的に物理空間を拡張する技術である
  • リダイレクテッド・ウォーキングには並進移動量操作、回転量操作、曲率操作の基本操作がある

とりあえずこの2つは覚えてもらえると嬉しいです。
VRはまだまだこれから発展していくホットな技術だと思うのでゲーム開発のようにインタラクティブな視点に目を向けるのも大事ですが、今回のようなどちらかというとアカデミックな視点に目を向けると違った面白さに出会えるんじゃないでしょうか。また、それらを前者のコンテンツに組み込んでも面白いと思います。
それでは私の最後の記事はこのへんで終わりにしたいと思います。
ご覧いただきありがとうございます。

参考記事など

shiropen.com

www.jstage.jst.go.jp

会津大学VR部の部員が持ち回りで投稿していくブログです。特にテーマに縛りを設けずに書いていきます!